2020年12月28日月曜日

・「究極のアコギの話」その5〜MARTIN ゴールデンエラの世界その2 究極のD28vsD18弾き比べ

 前回は〜MARTIN ゴールデンエラの世界 その1〜 

と題しまして、アコースティックギターの頂点とも言われる、ゴールデンエラ期(1930年代〜40年前半)のMARTIN 000-45 000-42 OM-28 をレポートさせていただきました。

前回の記事はこちらをクリック!



本当に素晴らしいギターの数々でした。今思い出してもニヤニヤしてしまいます。


さて今回はそのレポートの続きです!



〜MARTIN ゴールデンエラの世界〜その2 ドレッドノート編〜


と題して、ドレッドノート(D)にスポットを当てて、レポートさせていただきたいと思います。大変お待たせいたしました。。


さて、ドレッドノートといえば、アコースティックギターと聞いて、誰もがイメージするこの形のギターですね!




アコースティックギターの基本形としてギターファンだけでなく、広く一般の方にも認知されているかと思います。


ドレッドノートの魅力といえば

圧倒的な音量と

迫力の低音、

ぼんっ!という豊かな箱なり

ででしょうか。



この日本においてもフォークブーム全盛期に、多くの国産メーカーがこのサイズのギターを製作しました。

それで”フォークギター”というと、この形のギターをイメージされる方も多いと思います。


そしてもちろん現在でも、どのギターメーカーにもドレッドサイズのギターはあるものですね。 

最も有名なギターの形ともいえると思います。






こちらも今では当たり前の設計ですが、、、

やはりこちらもMARTIN 社の革新的な発明の一つです。



本当に恐るべきブランドですね。


(今後どれほどアコースティックギターが進歩していったとしても、MARTIN社の功績は永遠に語り継がれるように思います。。

各種サイズの発明、Xブレーシングの発明、ギターの各種デザインや装飾、音作り、あげたらキリがありません。

まさに”原点にして頂点”ともいえるブランドですね。。)




では今回のドレッドノートについて、簡単に歴史を紐解いてみたいと思います。(一生懸命調べ直しました。。)



このドレッドノートの原形は1916年ごろに発明されたと言われています。

ある楽器店のOEMモデル として、MARTIN社によって初めて作られました。



そしてOEMの終了後1931年にMARTIN は自社でこのサイズのギターを販売することになります。


そしてつけられた名前が「ドレッドノート」ですね。


これが同時最大級の戦艦の名前というのはあまりにも有名な話ですね!


1931年にD-1 D-2 というモデルが販売されます。

そしてその年のうちに、D-18 D-28 という名前に変えられました。

この名前は今では、広くマーチンのはたまたアコースティックギターの大定番として広く知られている名前ですね。

アコースティックギターで最も有名な機種の一つともいえると思います。


ちなみに余談ですがこの最初期のD-1 はコピーモデルが出ています。




オリジナルは2本しかないと記事で読みました。初期の歴史を知るには貴重なギターですね。。

(意外と中古で40万ちょっとで出ているようですね。)



このD-1 をみていただくとわかる通り、最初期のドレッドは12フレットジョイントですね。


1931年時点では14フレットのモデルはOMしかありませんでした。

それでドレッドノートは最初は12フレットからのスタートでした。


14フレットになったOMモデルの良さを得て、000やドレッドも14フレットに変更されていきます。

(余談ですが、先日訪問したクロサワ楽器名古屋店にはこの時期の00-45の14フレットがありました。

https://www.j-guitar.com/products/detail.php?id=514675

これは歴史的にもかなり貴重だと思います。ご興味のある方は、生徒さんのお一人がお勤めなのでご紹介できます。)



ドレッドノートは1934年に14フレット仕様になります。




この1934年以降、今おなじみの14フレット仕様のドレッドが現在に至るまで広く浸透していったのですね。


ではこの写真のギターに注目してみましょう。

写真のギターたちはそれぞれなんというモデルでしょうか??


もし左がD28  右がD18とすぐに見分けがついた方は、かなりのマーチンファンだと思います!


デザインは一見そっくりに見えます。難易度の高い、間違い探しのようですね笑



でもよーくみていただきますと指板のインレイやブリッジピンが違いますね。

写真ではみづらいですが、28はヘリンボーンバインディングが巻いてあります。


ではまず写真左のD28 から取り上げてみたいと思います。


D28にもいろんな種類がありますね。

やはりマーチンファンの方ですと、左はHD28V に見えるかもしれません。


こちらは生徒さんがお持ちのHD28V(2000)です。

全てのドレッドのスタンダードともいえる素晴らしい音色で、今でも人気の高いギターです。




ではお手数ですがもう一度先ほどの写真の左のギターを見ていただけますか??

HD-28Vとデザインの違いがわかるでしょうか。。

(画像をクリックしていただくとより高解像度でご覧いただけます)



そっくりですね。。違いはないように見えます。。


それもそのはずです。全く同じデザインだからです。

(一生懸命間違い探しをしてくださった方、申し訳ありません。。)



でも実は左のギターはHD28Vではありません。

そして上位モデルの、D-28マーキスやD28GE あるいはD28 オーセンティックなどでもありません。。


それら全てのギターのお手本になったオリジナルです!

D-28(1938) です。






1938年のモデルです。

1934年に14フレットになってから、わずか4年後のギターですね。。


世界中に存在しているドレッドノートの元祖ともいえるギターです。。多くのメーカーやルシアーが目標にしているギターです。。貫禄がありますね。。




トップはもちろんアディロンダックスプルース です。

前回の記事でも何度も取り上げましたが、、やはりこの戦前期の材料のグレードはすごいですね。。今では考えられない目の詰まり方で、一見シトカスプルースと思ってしまうほどです。。


縁取りは、ヘリンボーンバインディングです。




サイドバックはもちろん、、






ハカランダです。。本当に美しいですね。。


やはりこのギターも再塗装やクラックリペア、またリトップなどがない、フルオリジナルのコンディションでした。


ビンテージ本来の音をたもっています。


まさにモンスターコンディションです。。



さて1938年というのは実はもう一つの歴史的な価値があります。

1938年というのはフォワードシフトブレーシングの最終年です。


これまたマニアックですみませんが、少々お付き合いください。。



”フォワードシフトブレーシング”というのはサウンドホールにより近い(前に=フォワード)位置に、ブレーシングの交点が来ているものの事です。


このブレーシングが、ビンテージ設計のギターに見られる特有の音の抜け、鳴り方をもたらしていると言われています。


ビンテージコピーのギターのほとんどはフォワードシフトになっていますね。


(このブレーシングの評価が高いため、2018年以降MARTIN社はレギュラーモデルにもこのフォワードシフトブレーシングを採用しています)


素晴らしい音なのですが、当時使われていたヘビーゲージの弦には強度的に対応しきれないということで、フォワードシフトからリアシフトに変更になります。


前(フォワード)から後ろ(リア)にブレーシングが下がったのですね。

(余談ですが、同じ理由で、1945年にはスキャロップブレーシングが廃止されノンスキャロップが採用されるようになりました。)


もちろんそれぞれブレーシングに特有の魅力があるのですが、いわゆるビンテージ設計にはこのフォワードシフト スキャロップというのは、欠かせない合言葉のように思います。


(ちなみにマーチン社が作る究極のビンテージレプリカとも言われるオーセンティックシリーズにも

D28 オーセンティック1937 と

D28 オーセンティック1941 の2種類があります。


1938を境にブレーシングが変わりますので、

1937はフォワードシフト 1941はリアシフト ということになりますね。


ちなみにこちらは以前試奏した1941 です。リアシフトだとよりバランスが良いイメージです。少しミッドが強調される感覚でした。






ちなみにこれぞどうでもいい情報ですが、

一緒に行った生徒さんがこっそり撮ってくれた試奏中の写真も出てきました。4年ほど前です。



変な顔ですね。

驚くべきは私のシャープなアゴのラインです。早くこの頃の体重に戻れるようにしたいと思います。。)


今回試奏させていただいたギターはフォワードシフト最終年としての付加価値もマニア的には逃せないポイントでした。。



デザインもやはりかっこいいのです。。







インレイやヘッドのオールドロゴなど、今もビンテージ仕様のデザインですが、オリジナルの存在感はたまりません。。


さりげなくヘッドに使われているハカランダの化粧板もたまらないですね。。


サウンドについては後半でレポートさせていただきたいと思います!



ではここからD-18に参りましょう!


最初の写真に戻りまして、写真のギターがD18です。








こちらもマーチンマニアの方でしたらお気づきかもしれませんが、現在のD-18V や D-18GE と同じデザインですね。


こちらは以前試奏した新品のD18GE です。見比べてみますと、、





やはり同じデザインです。

でもやはりこちらはコピーで、先ほどの写真がオリジナルですね!


D-18 1938 です。

こちらも大変貴重なフォワードシフト期のものでした。。



D-18も世界中に、愛好家がいるベストセラーモデルですね。
ふくよかさや心地よい箱なりがありながら、軽く軽快に鳴り響くマホガニー サウンドで、とりわけカントリー、ブルーグラスミュージシャンを虜にしています。

こちらもたくさんのコピーモデルがありますが、オリジナルはすごかったです。。

この個体のコンディションも影響していると思います。年式やスペックは貴重でも、音に関わる部分にリペアが大きく入っていると、やはり本来の音からは遠ざかるように思います。。



このギターも、圧巻のコンディションでした。

オリジナルの塗装のまま、クラックもない状態です。。本当にすごいコンディションですね。。


トップですが、何度見ても、やはりシトカと見間違うほどやはりこの時期のアディロンダックの目の詰まり方は本当に圧巻ですね。。


くどいようですが笑、でもどれだけ強調しても強調しきれないくらい、素晴らしいグレードです。


でも実はトップも凄いのですが、実はこのギターの凄さはバックにもあります。


D-18といえばサイドバックはマホガニーですね!

軽快な音で、高音がスッキリしているので癒し系の甘いサウンドが魅力の材です。


でもこのギターはさらに特別です。


写真では伝わりにくいのですが、、。



この時代のマホガニーはホンジュラスマホガニーが使用されています。(一部キューバンマホガニー という説もあります)これに非常に高い価値があると思います。


現在でもマーチンはじめ、たくさんのブランドでマホガニー のギターが製作されていますね。

でも実は厳密にいいますと、、一般的に使われているマホガニーというのは実はほとんどが代替種です。。 


(もちろん魅力的な音を持つ良い材料もありますね。)

学術的にはホンジュラスマホガニーかキューバンマホガニーのみです。

正真正銘の純正のマホガニーと呼べるのはこの2種のみといわれています。


キューバンマホガニーは絶滅に近いといわれております。

ホンジュラスマホガニーも国際条約でかなり厳しく制限されており、どちらも超高額です。

ローズ系の超高級材に匹敵、ある場合上回るほどの価値があるといわれています。。


この時代の18は本物のマホガニー が使われています。サウンドのイメージではおそらくホンジュラスです。


普通マホガニー というと軽快 という感じですね。

その良さは残しつつ、重厚でレンジが深く音に厚みがあります。。でもローズとは違う音が軽く広がる感じ、、とにかくすごいんです。。

なんとも表現が稚拙で申し訳ありません。。


これは本当に気持ちの良いサウンドでした。。


もちろん28ハカランダも魅力的ですね。


ハカランダのレンジの広さ、音が前に飛ぶ力、強いタッチもしっかりと返す粘り、、究極の材料と呼ばれるのもわかります。

しかも美しくて、加工しやすいというまさにギターのために存在しているような木材です。。


でもこのグレードの本物のマホガニーと比べると、ハカランダに比べて何か劣っていると感じることもありません。。

レンジは広く、反応は早く、サウンドは甘くて耳触りが良いのです。。

トータルではやはりハカランダが上だと思いますが、本物のマホガニーの凄さも忘れがたいものでした。


28 18は基本的に基音のみのスッキリした音です。カントリやブルーグラスの軽快な音楽に好まれるのがわかる気がいたしました。





最高峰のギターに共通している物ですが、、このギターもスッと音楽に入り込めるギターです。。



近年製のHD28V と18GEを比べたことがあります。(比較動画はこちらをクリック)

でも、今回は材料の次元が違いました。。

まさに究極の28 18 弾き比べになりました。




素材の圧倒的な力を感じる二本でした。。


もちろんこのサウンドには、圧巻のアディロンダックスプルーストップ、そしてビンテージとして完璧なコンディションが影響していたことは言うまでもありません。。





改めてこうして並べてみますと、、やはりこれほどのコンディションのオリジナルの D-28 D-18が揃っている光景は、、世界にどれくらいあるんだろう、、なんて思ってしまいました。


今回、本当にご親切にも、このような素晴らしい体験をさせていただいたオーナー様には改めて心から感謝申し上げます。

いちアコギファン、またマーチンファンとして、かけがえのない体験をさせていただいたように思います。


さて最後にせっかくですので、ゴールデンエラ期ではないのですが、同時に試奏させていただいた素晴らしいギターのいくつかを簡単にご紹介させていただければと思います。

といいつつ、、最後に簡単に説明するようなギターではなく、、雑誌なら特集が組まれてもおかしくないレベルのギターたちです笑


D45 (1968)   ジャーマンスプルース ハカランダ



1968年にD-45は再生産が始まります。
その初年度のD-45です。ジャーマンスプルーストップ サイドバックはハカランダです。

68~69年の最初の2年だけハカランダが使用されています。中でも初年度は67本と大変貴重ですね。。これはそのうちの一本です。

いわゆる丸ヘッドモデルですね。



すでに、、戦前と同じほどの評価、価値を持つといわれている超プレミアギターの一つですね。。

戦前仕様の45より音の艶と厚みがあります。特にジャーマンスプルースだと45の倍音がより艶やかで、高音がとりわけ美しいです。。

ピアノを感じさせるギターで、、コードを弾くと12弦ギターのような厚みがありました。

本当に美しいサウンドでした。

ERVIN V SOMOGYI     

Modified D Cutaway (Jacaranda)







ルシアーの中で最高峰と名高いソモジギターです。
オール単板時代のものでした。

やはりドレッドですが、マーチンとは違い、音の芯や太さが圧巻です。。特にプレーン弦の太さと厚みには目を見張るものがあります。(この時代のソモジの音を聞くにはED GERHARDのファーストアルバムがお勧めです。録音もよく素晴らしい音です。)


デザインも息を呑むほど美しいのです。

ボディーも太鼓の様に深く振動し、、ミリ単位のボイシングを感じさせる素晴らしいなり方でした。ギターが軽いのにも驚きました。






中野潤 アントニオトーレス レプリカ





村治佳織 さんなどの仕様で有名な中野潤さんのギターです。

クラシックは詳しくないので、、ギター自体のことを詳しく語れないのが大変申し訳ないのですが、、圧倒的な美しさにぞくっとするギターでした。。

当時の製法をそのまま手作りで再現しているとのことです。。写真でもすごいのですが、実物の存在感は圧巻でした。。








本当にすごいですね。。

あまりの美しさに、私も妻も息を飲んで見入ってしまいました。。
これが手作業とで作られているとは、、。。

美術館などに展示されても良いと思えるほどの、芸術的な作品です。。

本当に貴重な体験をさせていただいた、良い旅になりました。





秋中旬の長野は、夜は冷えましたが、日中は天気も良く山並みが本当に美しかったです。





帰りは山梨県経由で美しい富士山も見えました。







さて、今年一年もいろんな方にお世話になり、本当にありがとうございました!

充実した一年になりました。


このブログもこれまで以上に、たくさんの方に見ていただき本当に感謝しています。

ギターに関するご質問や、購入前相談でお待たせしている方は本当に申し訳ありません。

必ずご返信いたしますので、どうぞ気長にお待ちくださいませ。



コロナ感染に気を受けながら、レッスンも引き続き行っております。

今年は新規の生徒さんとの新たな出会いも多く、私自身も新たなレッスンの方法などを試行錯誤し、色々学ばせていただきました。


新規のレッスンもまだ僅かながら募集しておりますので、レベルジャンル問わず、ご興味のある方は一度ご連絡くださいね。




ブログ読者の方のフォルヒ やエアーズのオーダーも、年明けにかけてドドっと入荷する予定です。大変プレミアムなギターも多いので私も大変楽しみです。


またそのギター達のレポートもさせていただければと思っています。

他にもピックアップのことや、録音のこと、音楽のことなど書きたいテーマはたくさんあるのですが、、なかなか初期の頃のようにたくさんかけずに申し訳ありません。


前回宣言した通り、月に一記事を目標に頑張っていきたいと思っております。これからも飽きずにチョコチョコ覗いてくださいませ〜




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