今回からのブログでは新しいシリーズが始まります。
題して 「ギターの選び方の話」です。
こちらは以前に元生徒さんのお宅でギター弾き比べをした時の写真です。
左から、OO(ダブルオー)、OOO(トリプルオー)、D(ドレッドノート)です。
素材もそれぞれ個性的でした。
トップ材は左から、アディロンダックスプルース、右の二本はルッツスプルースという木材です。
サイドバックの材料は、左からハワイアンコア、ブラジリアンローズウッド、ホンジュラスローズウッド(おそらく)でした。
考えてみますと、このように多彩なサイズと素材が選択できるのは、楽器の世界では比較的珍しいことのように思うのです。
バイオリンといえば、初心者モデルから、何十億もするストラトバリまで見た目やサイズも基本的に使用する素材もほぼ同じと言われています。
バイオリン以外の、オーケストラで使われるようなメジャーな楽器もほぼ基本的な仕様には変わりませんね。グランドピアノも基本的には誰もがイメージするあの形です。
(もちろん各種楽器にそれぞれマニアならわかる違いがあるのだと思います。)
アコースティックギターほど、多彩なサイズや素材がある楽器は珍しいですね。
このブログでも多種多様なアコースティックギターをレポートしてきました。
確かに、サイズや素材の組み合わせは限りなくありますね。
その中から自分にぴったりのギターを選びたいものです。
たくさんの中から選ぶのは難しくもあり、そしてとても楽しいものだと思います。
今回から始まる「ギターの選び方の話」では素材 設計 各種メーカーの特色などを順番に取り上げていきたいと思います。そして最後には今現在、私が究極と感じる素晴らしいギターたちの共通点についても書いてみたいと思います。
もちろんギターを始めたばかりの方や、最初に比較的低価格で良いギターを買いたいというかにも参考になれば幸いです。
その第一弾は「トップ素材」です!
トップ材の重要性について簡単に振り返ってみましょう。
ギターの場合、トップ(表の板)とサイドバック(横と裏の板)それぞれにあった素材があります。
ギターのトップ、つまり表の板はサウンドを作る上で特に重要だと言われています。
ギター製作家界の巨匠 ジョングレーベンさんは「トップがサウンドの99%を決める」とさえ言っておられました。
もちろん少し誇張も入っていると思います。でもそれくらい重要!ということは間違いないように思います。
トップ材に何を選ぶかは、かなりサウンドに影響しますので、ぜひじっくりと選びたいと思います。
各トップ材の好みに合わせて、おすすめのギターも紹介いたします。
50〜100万などを出せる方には、かなり多くの選択肢もありますが、
今回は一般的な趣味のレベルで素材の違いを楽しめるコスパの高いギターを紹介したいと思います。
今持っている高級ギターの音に満足していても、ちょっと他の素材の音も楽しみたいという方にも、セカンドギターとしてお勧めできます。
系統の違うギターを持つと、ギターライフはもっと楽しくなりますね!
<スプルースとシダー>
さてトップ材にもかなりの選択肢がある、と書きましたが、大きくグループ分けすると2種類に分かれます。
トップ材として使用される基本的な材は
・スプルース(松系)と
・シダー(杉系)
です。基本的にほぼこの2種類です。
(オールマホガニー、オールコアなどの例外もあります)
クラシックギターでは、スプルースとシダーがちょうど半々くらいでしょうか。
アコースティックギターでは8割程度スプルースのギターが占めているように思います。
ではまずスプルースかシダーどちらが良いでしょうか???
参考になる弾き比べ動画があります。
エアーズのスプルース、シダー弾き比べです。(ちなみに恥ずかしながら演奏は私がさせていただきました。)
モデルはエアーズの1996シリーズです。
エアーズの中でももっとコスパが良いシリーズです。
もしあなたが最初の一本の良いギター選びに迷ったら、まず私がお勧めするモデルの一つです。
トップ材以外は全く同じ仕様の2本のギターです。
1本目がシダーです。
2本目がスプルースです。
シダーに比べると色白ですね!
スプルースは焼けてくると黄色や茶色のように濃い色合いになります。
ビンテージギターなどはかなり焼けていますね。
見た目でも好みがわかります。
ではサウンドはどうでしょうか??
動画も音も編集なしで録音した動画をどうぞご覧ください。
皆さんはどちらがお好みでしょうか??
(もしよければイヤホンなどで大きめの音量で聞いてみてください)
音の違いがわかりにくい方は、何度か聴き比べてみるのもいいかもしれませんね。
シダーは柔らかい材料です。柔らかく振動するので「ふわっ」とした鳴り方ですね。音が広がるイメージです。
スプルースは硬い材料です。硬質な「パリッ」とした鳴り方です。音はシダーに比べると直線的に響く感じです。
新品で調整も同じ状態ですと、音量はシダーの方がでます。
一方スプルースはかなり細かい音量コントロールがしやすいです。右手のタッチに繊細、という感じでしょうか。
皆さんのお好みはどちらでしょうか??
・シダーがおすすめなのはこんな方
すでにスプルースの良いギターをお持ちの方は、セカンドギターとしてシダーがおすすめです。シダーは軽いタッチで、柔らかく癒し系の響きです。
休日に、あるいは仕事の終わった夜のゆっくりした時間に、リビングで肩の力を抜いて軽く弾くには最高です。
新品でとにかく音量が欲しいという方にもおすすめですね。
またクラシックギターが好きで、クラシックのような甘い音色が好きという方にもお勧めします。
実はアコースティックギターブランドの中で、シダーのギターを作っているブランドはあまり多くありません。
中価格帯ではおすすめな「エアーズ」や
「フォルヒ」にはどちらも定番機種にシダーがあります。
ちなみに私のおすすめは
エアーズでしたら SJ07 1996 シダーです。
箱なりが豊かで、とにかく余韻がとても美しいギターです。
今お持ちのスプルースのギターが音が硬い、また鳴りが足らないように感じておられる方にはおすすめです。
ぜひこの音を聞いてみてください。
癒しの音色ですね。
今お持ちのギターがドレッドなど大きいサイズでしたら、OMなどのスモールギターも良い選択肢だと思います。
もちろん私もご紹介できますよ。
比較的手頃な価格で、シダーとなるとFURCHもお勧めです。
私のおすすめは イエローシリーズのGc-CR です。
フォルヒの大定番モデルです。日本ではこの仕様が一番売れてきたそうです。
フォルヒファンの方には昔の、G23-CRCTというモデル名が馴染み深いかもしれません。
数年前にモデル名の改定がなされました。以前の23=イエローと同じですね。中の設計も少し変わっています。
フォルヒの中核モデルです。このサイズとフォルヒの音と、シダーがとても良いバランスだと思うのです。
フォルヒ社公式の動画があります。演奏はアレックスケイバッサーというギタリストです。
とても良いバランスですね!
フォルヒはフォルヒの音という特徴的なサウンドがあります。やや硬質でいわゆるドイツ系のギターの音に近いと思います。
少し余談ですが、
フォルヒの総輸入元スタジオMでギター講師をしていた時代に、フォルヒの試奏に来る方の7〜8割程度はシダーを購入されていたと記憶しています。
以前はよくサウンドメッセでフォルヒギターのブースのお手伝いもさせていただきました。
その時もやはり人気はシダーでした。
今ですと、Yellow D-CR になると思います。岡崎倫典さんも同仕様のギターをお持ちですね。
ちなみに余談の余談ですが、来日された時ブースでアレックスさんとセッションさせていただきました。
手前が若き日の私(と言っても4年前)ですね。懐かしい思い出です。
ではスプルースはどんな方にお勧めでしょうか??
・スプルースがおすすめなのはこんな方
もしまだオール単板の良いアコースティックギターを初めて買う方であれば、スプルースがおすすめです。
やはりスプルースはアコースティックギターの基本となる音です。
ソロギターやアルペジオだけでなく、ストロークの強い入力にも対応します。
応用範囲が広く、どんなジャンルにも対応しますね。
アコギマニアの方はご存知かもしれませんが、スプルースはシダーよりも多彩な種類があります。
ここからはスプルースを少し掘り下げてみましょう!
<スプルースの種類>
スプルースにはかなり多くの種類があります。
その中で今回有名なものを3つ取り上げてみましょう。
・シトカスプルース
・アディロンダックスプルース
・インゲルマンスプルース
そして最後にもう一つ、今現在私が特におすすめのスプルースを一つ紹介いたします。
・シトカスプルース
シトカとはカナダ西海岸の地域のことです。
一般的にスプルースというとこの「シトカスプルース」のことを指します。そのくらい大定番の素材です。
アコギの世界では1945年ごろよりマーチン社がそれまで使用していたアディロンダックスプルース(後述いたします)の代用材として採用し、今では最も広く使われるスプルースになりました。
トップ単板の低価格帯のギターから、最高峰モデルにまで使用されることがあります。
例えばマーチンを例に取ってみますと、Xシリーズと呼ばれる低価格帯から
もちろん同じ素材でも、材のグレードによって音質はだいぶ異なりますが、シトカスプルースはアコースティックギターの素材としてとても優秀だと思います。
安定供給がしやすいため価格も安いですね。
シトカスプルースは硬いと言われるスプルースの中でもかなり硬い素材と言われています。
硬質な芯のある音色が魅力です。
同じ設計ですと他の素材と比べて、少し素朴な感じにもなります。
カントリーや、ブルース、また歌の伴奏など素朴な音色を聴かせるにはもってこいです。
ストロークにも合いますね。
ソロギターだともう少し艶や音の深みが欲しいという方には、倍音が入ったギターだといいと思います。
マーチンの42、45またグレーベンのホワイトレディー、NGCやメリルなどの42、45コピーなどですね。
先ほど弾き比べ動画のスプルースもシトカスプルースでした。
低音が欲しい方にはSJサイズのシトカスプルースもいいですね。
エアーズの基本となる音がよくわかる動画です。
一般的にはこれでも十分だと思います。
でももっと圧倒的なパワーや音の厚みが欲しいという方もおられるでしょうか??
おすすめの材料があります。
・アディロンダックスプルース
アディロンダックはニューヨーク北西にある山地のことです。
アコギ界で神聖視されている、1930年代のマーチンに使用されていたことで、今でも最高峰のスプルースとして名高い材料です。
(ちなみに以前はマーチン社がこの山地の近くに工場があったようですね。)
グレードの高いアディロンダックスプルースは希少価値が高く、安定供給が難しいと言われています。
それで現在でも使用されるのは一部のカスタム品のみというのが多いですね。
近年のアディロンダックは木目が少し広いことが多いです。
こちらはMARTIN の000-42 1939 オーセンティック というモデルです。
000-42 1939年の復刻モデルですね。このモデルはエリッククラプトンの使用で大変有名になりました。
トップはアディロンダックスプルースです。やはり少し木目が広いでしょうか。
音はやはり音量とパンチが出ます。強く弾いても音が潰れずに響きます。粘る音と表現される方もいますね。
ちなみに実はこの000-42 の1939年の本物も弾かせていただいことがあります。
もちろんアディロンダックです。
木目の細かさに注目していただけるでしょうか。。
現在では戦前ほどの材料は使えませんが、それでもパワフルさや音の厚みを求める方には、やはりおすすめです。
エアーズやフォルヒでもカスタムでオーダーできます。
特にエアーズはベイクドと呼ばれる、ビンテージ加工のなされたアディロンダックが選択できます。
かなり色が焼けていますが、アディロンダックです。
とても良いバランスですね!OMなので、メロディーが美しく聞こえますが、アディロンダックからくるパワーで低音も厚みがあります。ベイクド加工のため、音が抜けて余韻が美しいですね。
一度はアディロンダックスプルース!という憧れをお持ちの方もおられるでしょう。
エアーズだと4万ほどアップチャージでオーダーできますね。
色が白いスプルースがお好きな方には、通常のアディロンダックスプルースもあります。
さてアディロンはパワフル系ですが、やはり硬い材料です。シトカスプルースよりですね。
スプルースの輪郭は欲しいけど、もう少し高音に艶が欲しい、音色に甘さが欲しいという方もおられるでしょう。直線的なパワーより、空間を揺らすような美しい響きが欲しいという感じです。
そんな方におすすめのスプルースがあります。
・インゲルマンスプルース
こちらも最近はかなりメジャーになった材料です。カナダ産のものが特に好まれています。
インゲルマンの特徴はなんといってもその見た目です。
とにかく色白で、絹のような木目です。
こちらはフォルヒのインゲルマンスプルースモデルです。
とにかくきめが細かく、色白美人です。アディロンのようなワイルドな木目もいいですが、この美しい白は魅力がありますね。。
大手メーカーですとマーチンのジョンメイヤーモデルに採用されているのが有名です。
エアーズでも積極採用されています。
こちらはSJ06 メイプルモデルのトップです。
やはり色白ですね!
インゲルマンはとにかく高音が綺麗です。スプルースの中では最も柔らかい部類と言われています。
値段も比較的安価です。各社1万円程度のアップチャージですね。
特に、ソロギター専門の方ですと、メロディーが綺麗に響くギターは弾いていて気持ちが良いですね。
フォルヒもエアーズも、マーチンに比べますと元々の設計が少し芯の強い線の太い鳴り方です。
それで、高音に艶や甘さが欲しいという方にはかなりお勧めできます。少し線が甘くなり艶やかになります。
といっても低音が出ないわけではなく低音も太い音が出ます。
私が大好きなギタリスト 西村ケントくんのフォルヒもトップがインゲルマンスプルースですね。
ブログのかなり初期の記事ですが、レポートがあります。
このギターを使ってすでにたくさんの動画がアップされていますね。
こちらのスティービーワンダの名曲のカバーです。素晴らしいアレンジですね。
他のスプルースのフォルヒに比べると、やはり艶が出ますね。
インゲルマンは柔らかいスプルースなので、サイドバックに硬い材料を合わせるというのもいいと思います。
メイプルなどは、通常のスプルースと合わせると少し音が固くなりすぎるのですが、インゲルマンと合わせると、とても良いバランスです。
こちらはエアーズのSJ06のインゲルマンスプルースとメイプルのモデルです。
エアーズの中で、私が好きなモデルの一つです。
メイプルの素早いレスポンスがありながら、インゲルマンがあると音の深みも出ていいですね!
インゲルマンスプルースは価格も安く、サウンドクオリティーも上がりますので、特にシトカスプルースにこだわりがない方は、1万円でアップチャージするのもいいかもしれません。
かなりコストパフォーマンスの高い材料ですね。
さてここまで、シトカ アディロン インゲルマン と特に有名な3種類のスプルースを解説してきました。
もちろん他にもたくさんの種類があります。
最後に一般にオーダーしやすい材料の中で、私がお勧めのものをご紹介いたします。
それはアルパインスプルース です。
アルパイン(Alpine)=アルプスの という意味ですね。
ギター用の材料としてジャーマンスプルースは有名ですね。国内ではヨーロッパトウヒ、ドイツトウヒなんて言われたりします。
塩崎ギターに使用されていたジャーマンはとても良い素材でした。
ドイツ国内では質の良いものはほとんど取れないようです。
国境をまたいで同じ材料が、アルパインスプルース、スイススプルース、総称してヨーロピアンスプルースと呼ばれたりしています。つまり産地の違いで種類は同じということでしょうか。
亜ルパインスプルースも色白系ですね。
こちらはフォルヒのアルパインスプルーストップです。ベアクロウが入っています。
こちらはエアーズのカスタムギターに使われていたアルパインスプルースです。
(下の方がぼやけていて申し訳ありません。。)
エアーズの公式カメラマンの写真もあります。
見た目はインゲンルマン寄りの色白な材料が多いように思います。
このアルパインスプルースですが、インゲンルマンのような柔らかさもありつつ、より硬質な煌びやかさを感じます。
こちらのギターの動画があります。
インゲルマンよりも煌びやかさを感じますでしょうか??
メイプルとの相性もとても良かったです。
こちらはサイドバックがマダガスカルローズウッドのカスタム品です。
やはりトップはアルパインスプルースです。
マダガスカルになりますとさらにレンジが広くなりますね。音の情報量が多いです。
柔らかさがありながら、美しいガラスのような高音が欲しい方は、アルパインスプルースを特にお勧めいたします。私も大好きな材料です。
このようにしなやかさと硬さを兼ね備えた材は魅力的ですね。
今回は取り上げませんでしたが、個人的にはルッツスプルースも大好きです。グレーベンギターによく使用される材料ですね。
これも、、かなり、、魅力的な音なのです。。エアーズでもオーダーシートにはないのですが、カスタムで作れることもあります。
エアーズのニューシリーズに使用される予定です。
さて今回はかなり長い記事になりましたね。ここまでお疲れ様でした。
いかがだったでしょうか?皆様のギター選びの参考になりましたらとても嬉しいです。
最後に一つだけ注意点を。
素材の種類ももちろん大切ですが、素材のグレードももちろん大切です。
もちろんグレードが落ちても、それぞれの材料の特性はよく現れています。
変な例えですが、お肉にもいろんな種類があります。牛、豚、鳥、などなど。。
それぞれに特徴があり、好みがありますね。
一般的には最も高級なのは牛ですが、質の低い牛肉と、最高級の鶏肉はどちらが良いか、、ということかもしれません。
木材も同じように、一般的な木材でもグレードが高いと素晴らしい音がするものあります。
アディロンの音は私も大好きです。あの特徴的なパンチ力と粘りは他では出せませんね。
でも比較的低価格な材料でもグレードが良ければ、素晴らしい音が出ます。
あるいは比較的最近注目されている材料は、まだストックも多く良いものが残っているかもしれませんね!
もっと具体的に、ご自分に合った材料などについてご相談されたい方はどうぞ遠慮なくメールなどでご質問くださいね!
レッスンなどでお待たせしてしまうこともありますが、必ずご返信いたしますのでどうぞ気長にお待ちください。
次回ですが、予定通りに行けば次回はギターの選び方の話 その2「サイドバック材」をお届けいたします。
こちらは戦前マーチンの柾目のブラジリアンローズウッド。。
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